lake2017 の休憩所

英語・音楽・探偵小説・SF・社会情勢等ゆるく書いていきます。

楽しい戦前派探偵小説入門

今回は日本の本のお話。



今から思えば、大正末期から昭和ヒトケタの日本は背景に危なっかしいものを抱え込みつつも、大衆文化は百花繚乱といった感じでした。エロ・グロ・ナンセンスがブームになり、街にはモボ・モガが闊歩する時代です。そんな中でエンターテインメントとして大ブームとなったのが江戸川乱歩を筆頭とする探偵小説です。


「探偵小説って推理小説のことじゃないの」という疑問を持たれた方もおられると思いますが、正直に言ってその通りです。ただ、戦前の時点では科学小説(今のSF)や幻想・怪奇小説がまだ未分化の状態で探偵小説の一部となっていました。昭和40年代に「異端文学」なる言葉が流行ったことがあるのですが、だいたい戦前の探偵小説と重なっていました。実際、戦前派の作家の作品が大量に復刻されてました。


とりあえず、何冊か見ていきましょう。

黄金仮面
黄金仮面
東京創元社
2012-10-25
Kindle本

ツウの方からは顰蹙を買いそうですが、江戸川乱歩は「黄金仮面」がお気に入りです。初めて読んだ大人向けの乱歩がこれだったからかもしれません。いわゆる通俗長編のひとつですが、目立った破綻もなくよく出来たスリラーです。あえて欠点を探せば犯人が[検閲済]。


少女地獄 夢野久作傑作集 (創元推理文庫)
少女地獄 夢野久作傑作集 (創元推理文庫)
東京創元社
2016-08-31
Kindle本

戦前の探偵小説といえば夢野久作を忘れてはいけません。変格探偵小説という言葉が当時あったのですが、夢野はまさに変格派。「謎解き何それおいしいの」みたいな作風です。タイトル作「少女地獄」は三篇の短編からなるオムニバスで、最初の「何でも無い」がお気に入りです。ヒロイン姫草ユリ子の魅力に虜になる人は多いでしょう。夢野といえば「ドグラ・マグラ」という方も多いと思いますが、あれは作者の世界に慣れ親しんでから手に取った方がいいでしょう。


日本探偵小説全集〈6〉小栗虫太郎集 (創元推理文庫)
日本探偵小説全集〈6〉小栗虫太郎集 (創元推理文庫)
東京創元社

小栗虫太郎は「完全犯罪」を押したいのですが、表題作になっている本が現在出版されていないようなので分厚いこれにしました。個人的には小栗は中短編作家だと思います。独特の文体にペダントリーが魅力的です。ちなみにこの本には「黒死館殺人事件」が収められていますが、短いのを読み尽くしてから取り掛かった方がいいです。いきなり読むと混乱するだけだと思いますので。


とりあえず三冊紹介しましたが、戦前派探偵小説は底なし沼です。入り込むと抜けられなくなりますよ。


本日はこの辺で。